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腰痛症について
 ここに提示いたしますのは、腰痛症の概観を理解していただくための一般向けの広報です。
出典は、アメリカ合衆国のNIH(National Institute of Health)のなかのNINDS(National Institute of Neurolosical Disorder and Stroke)が一般向けのホームページに掲載した案内です。


腰痛症について


目次

1.腰部を構成する構造
2.腰痛の原因
3.どんな人が腰痛になりやすいか
4.腰痛に伴う諸症状
5.腰痛の診断
6.腰痛の治療について
7.腰痛は予防できるか
8.腰痛を治すコツ
9.腰痛に関する研究について



腰痛症を持っているといっても、それはあなただけではありません。殆ど誰しもがある時点では腰痛を患い、仕事や日常動作、余暇の活動などに支障をきたします。アメリカ人は年間少なくとも500億ドルを腰痛症のために費やし、仕事に関連する最も頻度の高い障害であり、職を失う最大の原因となっています。腰痛症は合衆国内で2番目に多い神経疾患で、唯一頭痛だけがそれを上回ります。幸運なことに腰痛の大半は、数日以内に軽快します。しかし軽快するのに時間がかかったり、重大な病状に繋がることもあります。

急性、即ち短期間の腰痛は、ふつう数日から数週間継続します。急性の腰痛はそのほとんどが機械的なものです。たとえば腰部の外傷や関節炎などの結果起こります。外傷による痛みは、スポーツ事故、家庭や庭での仕事、交通事故やその他の急激な脊椎への強い衝撃によって引き起こされます。症状は、筋肉痛程度のものから突き刺されるような痛みまで幅広く、柔軟性がなくなり動きに制限が現れ、真っすぐに立つこともできなくなることがあります。体の一部で感じられる痛みは時々、体のほかの場所の病気や外傷から「放散」されていることがあります。急性の疼痛は、そのまま放置すると重大な病状に陥ることもあります。

慢性の腰痛症はその継続期間によって決まります。すなわち3カ月以上継続したとき、慢性とみなされます。その痛みは進行性のことが多く、原因を特定することが困難です。


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1.腰部を構成する構造

背部は骨と筋肉やその他の組織が複雑に絡み合い、頚部から骨盤までにいたる胴体の後方部分を構成しています。その中央にあるのが脊椎の柱で、これは上半身の体重を支えているだけではなく、脊髄神経(体の動きを制御し、知覚信号を伝達する繊細な神経組織)をその中に擁して守っています。30以上の骨(脊椎骨)が積み重なって構成された脊柱は、背骨とも呼ばれています。これらの骨のそれぞれに丸い穴があって、お互いに積み重なって脊髄神経を囲む通路を形成しています。脊髄神経は脳の基底部から下方に伸びて、大人の場合にはちょうど胸郭の下まで到達します。脊髄神経からそれぞれの椎骨の間の空間を通じて、細い神経(神経根)が出たり入ったりします。子供のころ脊髄は脊柱の全長にわたって延びていますが、脊椎骨がその後も成長するので、腰部や足に行く神経根は、脊椎から出てくるまでに10-20cm脊椎管の中を通過します。この大きな神経根の束は、昔の解剖学者によってCauda equina、即ち馬尾と名づけられました。椎骨と椎骨の間には椎間板と呼ばれる円形でスポンジ状の軟骨があり、腰部に柔軟性を提供し、体の動きに合わせてクッションとなることによって、脊柱全長にわたり一種のショックアブソーバーの役割を果たします。靭帯や腱によって椎骨は固定されており、脊柱に筋肉を付着させています。

まず最初に、脊椎は四つの部位に分かれます。
・7個の頸椎(C1-C7)
・12個の胸椎(T1-T12)
・5個の腰椎(L1-L5)
・仙骨と尾骨(脊椎最下部の癒合した骨のグループ)

腰部は上半身の体重を支えており、最も痛みを発生する部分です。


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2.腰痛の原因

人は加齢に従い、骨の強度や筋肉の柔軟性と収縮力を失っていきます。椎間板は水分を失って柔軟度が低下し、椎骨のクッション作用を喪失していきます。

例えばなにか重い物をもちあげたり、過度のストレッチをしたりした時に、腰部の筋肉や靭帯に収縮、緊張、痙攣などが起こり、痛みの原因となります。もし脊椎に過度の緊張と圧迫が加えられると、椎間板は破裂したり周囲に突出したりします。この椎間板の破裂によって、肉体の動きを制御し体から脳へと知覚信号を伝達している脊髄神経に出入りする50以上の神経の中の一本を圧迫する結果となります。こうした神経根への圧迫や刺激が起こると、腰痛が発生します。

腰痛は神経か筋肉のトラブル、或いは骨の病巣を反映している可能性があります。多くの腰痛は背部への怪我や外力の結果として発生しますが、関節炎や椎間板疾患などの変性疾患、骨粗鬆症やその他の骨疾患、ウィルス性疾患、関節と椎間板への刺激、脊椎の先天性疾患などによっても痛みが発生します。肥満、喫煙、妊娠時の体重増加、ストレス、運動不足、活動時の不適切な姿勢、睡眠時の悪い体位なども腰痛の原因となります。また、損傷を受けた背部の治癒過程に生じる瘢痕組織は、正常組織に比べて脆弱であり可動性も十分ではありません。損傷が繰り返し起こって生じる瘢痕組織の形成は、結果としてさらに背部を弱体化し、よりいっそう深刻な損傷につながります。

時として腰背部痛は、もっと深刻な医学的問題を意味していることがあります。発熱が伴ったり腸管や膀胱の制御を喪失したりする痛み、咳をするときの痛み、そして下肢の進行性の脱力などは、神経が強く圧迫されている場合やもっと深刻な病変を示している可能性があります。糖尿病を持つ人の場合、激しい背部痛や足に放散する痛みを合併することがあります。こうした症状を示す人は直ちに医師に相談し、恒久的なダメージを予防する必要があります。


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3.どんな人が腰痛になりやすいか

 殆どすべての人が一時的な腰痛は経験するものです。男女も等しく腰痛を患います。30歳から50歳の間で頻度が高く、その理由の一つは加齢性の変化が進んでいく時期であることですが、もう一つの理由は運動不足(時には過剰な場合もある)を伴った座位を強いられる生活習慣にあります。椎間板の病変や脊髄の変性に起因する腰背部痛のリスクは、年齢とともに増加していきます。

外傷やその他の明らかな原因と関連のない腰背部痛は、10代前半の子供たちには普通見られません。しかし教科書や教材を過剰に詰め込んだ背負い鞄は、背部にストレスを与え筋肉疲労を引き起こします。合衆国商品安全取締局によると、2000年には13260件以上の背負い鞄に関連する損傷が、医院、クリニック、救命救急室で治療されたと推計されています。背部への負担を避けるために、鞄を背負う子供たちには重い鞄を持ち上げるときに両膝を曲げるようにさせ、授業の合間のロッカーと教室間の移動時には荷重を軽減するために本を取り換えるようにさせるべきで、さもなければホイールのついた航空鞄を購入させるべきです。


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4.腰痛を伴う諸病変

腰背部痛を発症し、医師や整体師による治療の必要な病変には以下のものがあります。

椎間板ヘルニア(椎間板の突出や破裂)

椎間板は持続的な圧力に曝されています。椎間板が変性し弱体化するに従い、軟骨が膨隆して脊髄や神経根の空間に突出していき、痛みの原因となります。ヘルニアが最も起こりやすいのは、脊椎の下位部分、すなわち腰椎の部分であることが明白となっています。

破裂椎間板のもっと深刻な病状は馬尾症候群と呼ばれているもので、これは椎間板の構成物質が脊椎管に押し出され、腰椎と仙椎にある神経根の束が圧迫されたときにおこります。もし治療を受けないで放置した場合、恒久的な神経損傷が起こる可能性があります。

坐骨神経痛

坐骨神経痛というのは、ヘルニアや破裂を生じた椎間板が坐骨神経を圧迫する状態をいいますが、この坐骨神経という太い神経は脊髄から出口のある骨盤まで下降し、下肢に神経線維を運んでいます。この圧迫により電気ショックのような激痛が腰部に発生するとともに、臀部から膝下にかけての疼痛を伴い、時には足の先まで痛むこともあります。最も重症の症例では、神経が椎間板と骨の間で絞扼されて神経の伝達が遮断されてしまいますので、、痛みだけではなく知覚麻痺と運動障害が発生します。こうした状況は、腫瘍、のう胞、転移性疾患、坐骨神経の変性疾患などでも生じることがあります。

脊椎の変性

椎間板の疲労や破壊から発生する脊椎の変性は、脊椎管の狭窄の原因となります。脊椎変性のある人は、起き上がるときに背部のこわばり感を経験したり、起床時や長時間の立位により痛みが発生します。

生まれつき脊椎管の細い脊椎管狭窄症の人の場合には、椎間板病変による疼痛の発生が起こりやすいといえます。

骨粗鬆症

骨粗鬆症は、骨密度と骨強度の進行性の減弱よって特徴づけられる代謝性骨疾患です。体内での骨新生ができなくなったり、過剰な骨成分の分解吸収が発生したりすると、脆くて穴だらけになった脊椎と臀部の骨が骨折を起こす結果となります。女性は男性と比べると、約4倍の頻度で骨粗鬆症になります。遺伝的に北ヨーロッパのコーカサス人女性が骨粗鬆症を最も発生しやすいということが判っています。

骨格の変形

骨格に変形のある場合には、脊椎骨とその支持組織である筋肉、腱、靭帯と、背骨に支えられた肉体組織に過度の負担が加わります。こうした変形には、脊椎側弯症(背骨が横に曲がった状態)、脊椎後弯症(背骨上部が過度に後ろに突出するように曲がった状態)、脊椎前弯症(背骨の下部が極度に前方に突出するように曲がった状態)、背部の過伸展(背骨が後ろに反りかえった状態)、背部の屈曲(過度の猫背状態)などがあります。

線筋症

線筋症というのは、広範囲にわたる筋肉と骨格の痛み、疲労、多数の圧痛点などを特徴とする慢性疾患で、その痛みは頸部、背骨、肩、臀部に発生することが多いようです。

脊椎炎

脊椎炎は、脊椎の関節に発生した重度の感染や炎症によって生じる疾患で、慢性の背部痛と硬直の原因となります。その他に痛みを伴う腰背部の炎症性疾患に、骨髄炎(椎骨自体の感染症)や仙骨腸骨炎(仙骨と腸骨の関節の炎症)があります。


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5.腰痛の診断

病歴の聴取や理学的診察を行うことによって、危険な状態であるかどうかについてや痛みに関しての家族歴を特定することが可能です。痛みの発生時期や部位、痛みの程度、症状の持続時間や動きの制限、以前におこった痛みの履歴や疼痛に係る体の状態などについて、患者たちは説明するでしょう。医師たちは、背部を診察し神経学的検査を行うことによって、痛みの原因を特定し適切な治療を行います。血液検査を行うこともあるでしょう。腫瘍やその他の痛みの原因疾患を診断するために、画像診断検査を行うこともあります。

腰背部痛の原因を特定する診断方法には様々のものがあります。

X線画像には、背部痛の原因と部位を診断するための検査として、一般撮影と造影検査があります。一般撮影は普通最初に行われる画像検査ですが、骨折や椎骨の損傷を発見するために行います。レントゲン技師は低量のイオン化した放射線を背部に照射し、骨構造と椎骨の並び具合や骨折を明確に示す写真を数分以内に作成します。損傷を受けた筋肉や靭帯、痛みの原因となる椎間板の突出は、レントゲンの一般撮影では描出できません。この迅速、非侵襲的、痛みのない検査は一般のクリニックでも普通に行われています。

椎間板撮影は、腰痛の原因と考えられる椎間板に特殊な造影剤を注入して行われるものです。注入の後にレントゲン撮影を行うことで、造影剤が損傷を受けた椎間板の輪郭を描出します。この検査法は腰椎の手術を計画している患者や、従来の治療で改善しない患者に推奨されることが度々あります。脊髄造影法もレントゲン診断のより優れた手法です。この方法の場合には、造影剤が脊髄腔内に注入され、椎間板ヘルニアや骨折によって圧迫を受けた脊髄や神経をレントゲン上に写すことが可能となります。

CTスキャンは、椎間板ヘルニア、脊椎管狭窄、椎骨損傷などが腰痛の原因として考えられる場合に行われる検査法で、迅速かつ痛みのない検査です。様々な角度から放出されたレントゲン線が体を通過し、背部の内部構造を二次元の断面画像(1mmの厚さ)として描出するために、コンピューター化されたスキャナーでそれを読み取ります。この診断的検査は、画像センターや大病院で普通行われます。

MRI検査は、腰部の骨変性や外傷、そして神経や筋肉、靭帯や血管などの組織内の病変を評価するために行われます。MRIスキャン装置の内部では、一時的に組織内の水分子を整列させるため十分で強力な磁場が作られます。その状態で肉体内部に電磁波を通過させ、水分子が無秩序状態に戻るまでの緩和時間の検出と、体の様々な角度からの共鳴信号の検出を行います。この共鳴信号をコンピューターが画像化し、スキャンされた組織の3次元画像と2次元スライス画像を描出します。この画像上では、骨組織、軟部組織、液体の充填された空間などが、その水分含有率や構造上の特性によって区別することができます。この非侵襲的な検査は、速やかな手術治療を必要とする病変に対して一般に行われます。

電気的診断法には筋電図、神経伝達検査、誘発電位検査などが含まれます。筋電図検査は神経の電気的活動を記録することによって、脱力が筋肉自体の外傷によるものか、それとも筋肉を支配している神経の障害によるものかを判別します。極細の針電極を筋肉内に刺入し、脳や脊髄から特定の部分に送られた電気信号を測定します。神経伝達検査では、筋肉を被う皮膚に置かれる2本の電極(筋電図検査と同じような電極)が使用されます。一方の電極から、特定の筋肉に走行する神経を刺激するために弱い電気ショックを加えます。もう一方の電極を使って神経の電気的活動を記録し、この情報から神経損傷の有無を判定します。誘発電位検査でも2本の電極を使用します。一方の電極によって感覚神経を刺激し、もう一方の電極は頭皮上に置かれて、神経シグナルが脳に到達するまでの速度を記録します。

骨シンチは、感染、骨折、骨異常などの診断と経過観察に使われます。少量の放射性物質が血液内に注入され、この物質は特に病変部分の骨に取り込まれていきます。関節病変の程度を測定するのと同じように、異常な骨代謝を示す部位や血流異常を示す部位を同定するため、検出器が画像情報をコンピューターに送ります。

サーモグラフィーは、人体両面のわずかな温度変化や特定臓器の温度を測定するための赤外線検出装置です。神経根の圧迫の有無を検出するためにサーモグラフィーが使われることがあります。

超音波検査は、高周波の音波を使って人体内部の状態を画像化するものです。音波の反射波を記録し、リアルタイムの画像を表示できます。超音波検査によって、腰背部の靭帯や筋肉、腱やその他の軟部組織の断裂を画像化することができます。


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6.腰痛の治療について

殆どの腰痛症は手術をしなくても治療できます。治療には鎮痛剤の服用、炎症の軽減、適切な機能と強度の回復、障害再発の予防などがあります。多くの腰痛症の患者は、機能障害を残さずに回復します。72時間以上の自己治療を行っても痛みや炎症が軽減しない場合には、必ず医師と相談すべきです。

冷却法と温罨法(冷湿布や温湿布の使用など)が腰背部の障害に速やかな効果を示すことについての科学的な証明は未だなされておりませんが、湿布が痛みや炎症を軽減して可動域を増す可能性はあります。患者は外傷が起こった時にはできるだけ速やかに、氷嚢や冷湿布(氷を詰めた袋や冷凍野菜をタオルで包んだものなど)を一回20分まで、一日に5-6回患部に当てるべきでしょう。2-3日の冷却法の治療を行った後、短時間の温熱治療(保温用のランプや鍋敷きを使用するなど)を患部に行い、筋肉の緊張をほぐし血流を改善させるのが良いでしょう。温浴も筋肉をリラックスさせるのに有効です。熱い敷物の上で寝るのは避けるべきです。というのは低温やけどを起こして、さらに患部を痛める可能性があるからです。

ベッドでの臥床は1-2日に限るべきです。1996年に行われたFinnishらによって行われた研究によって、腰背部痛が発生してからも安静臥床を行わず日常活動を継続した人たちのほうが、1週間ベッドで安静を保った人たちよりも、腰部の柔軟性における予後の良いことが判っています。その他の研究でも、ベッドでの安静臥床が二次的な合併症につながることを示唆しています。その合併症というのは、抑うつ状態、筋力低下、下肢の血栓症などです。患者は可能な限り速やかに日常活動を再開するべきです。夜間やベッド安静を行うときには、患者は横向きになって枕などを両膝の間に挟むのが良いでしょう。(両膝の下にまくらを入れて仰向きに寝るのが良いという医師たちもいます。)

運動療法は腰痛の回復を早める最も効果的な手段である可能性があり、背筋や腹筋を強化するのに役立ちます。筋力を維持し鍛えることは、骨格的な不整を有する人にとっては特に大切なことです。医師や理学療法士は、筋肉の動きを維持し、回復過程を迅速化するための優れた運動法のリストを提供してくれます。背部の健康維持に役立つ日常活動には、ストレッチ運動、水泳、ウォーキング、協調運動を改善し適切な姿勢と筋肉バランスを促進する運動療法などがあります。ヨガは筋肉のストレッチと痛みの軽減のためのもうひとつの手段となります。こうした運動療法の初期に感じられる軽い不快感は、筋力の上昇に従い消失していくはずです。しかし運動療法の際に生じる痛みが軽いものでなく15分以上継続する場合には、運動を中止して医師と相談するべきでしょう。

急性や慢性の腰痛症に対して薬物療法がよく行われます。充分な痛みの軽減には、処方箋の薬と店頭売りの薬を組み合わせる必要があります。患者は薬を内服する前に必ず医師と相談するべきです。たとえ店頭売りの薬であっても、ある種の薬は妊娠中には安全とは言えませんし、他の薬と相互作用することもあります。また意識障害などの副作用を示すこともあり、肝臓にダメージを与えることもあります。

店頭売りの薬物:非ステロイド系の消炎剤(アスピリン、ナプロキセン、イブプロフェンなど)の服用によって、凝りや腫れや炎症は軽減し、軽度から中等度の腰痛ならば症状は軽くなります。局所の皮膚にクリームやスプレーとして使用される店頭売りの刺激剤は、皮膚の神経末端を刺激することによって温熱感や冷却効果を発揮し、痛みの感覚を軽減します。消炎鎮痛剤の局所使用も炎症を抑え血流を増加します。こうした薬剤の多くには、サリチル酸やアスピリンなどの経口薬に含まれる成分が含まれています。

抗てんかん薬:本来はてんかんの治療に使用される薬物ですが、ある種の神経痛には効果があり、消炎鎮痛剤と一緒に処方されることがあります。

抗うつ剤:特にアミトリプチリンやデシプラミンなどの三環系の抗うつ剤は、痛みを軽減することが示されており(うつ状態に対する効果とは別に)、睡眠を促す効果もあります。抗うつ剤は脳内の化学物質のレベルを変化させ、気分を高揚させるとともに痛みの信号を鈍くさせるのです。SSRI(選択的セロトニン再吸収阻害剤)のような新しい抗うつ剤の多くについては、痛みの軽減における有効性について現在研究が進行中です。

麻薬:コデインやモルヒネなどの麻薬が重度の急性や慢性の腰痛症に処方されることがありますが、こうした薬物の使用は医師の指導のもとに行い、短期間だけに限られるべきです。副作用として、意識障害、動作の緩慢性、判断能力の低下、薬物依存の危険などがあります。こうした薬物の慢性的な使用が腰痛症の患者にとって有害であり、うつ状態や疼痛の悪化を生み出す可能性のあることについて、多くの専門家たちの意見は一致しています。

脊椎の徒手整復術は、資格のある専門家(カイロプラクティック療法の医師)がまさしく手を使って行う方法で、局部に加える力と一連の運動を通して、脊椎構造を矯正しその可動域を回復させるものです。


腰痛が従来から行われている方法によっても改善しないときには、次に掲げる選択肢を考慮することもできます。

鍼治療:髪の毛ほどの太さの針を、体全体に及ぶ正確なつぼに打ち込みます。鍼灸師の信じるところによれば、この操作によって体内にあるペプチドという鎮痛作用を示す分子の放出を促し、体の正常なエナジーフローを解き放つことができます。急性期腰痛症に対しての従来治療に対する鍼治療の有効性については、臨床試験が現在進行中です。

バイオフィードバック:多くの急性の疼痛、特に腰痛と頭痛の治療に利用されています。特殊な電子機器を用いて、筋肉の緊張度、脈拍、皮膚温などの肉体機能について、患者が意識し、容認し、制御できるように訓練するものです(局所の血流パターンの制御など)。例えばリラクゼーションの方法によって、患者は痛みに対する自分の反応を変容させることができます。バイオフィードバックは、副作用なく他の治療法と組み合わせて行うことができます。

インターベンション治療:体の特定部分と脳の間の神経伝達をブロックして、慢性の痛みを軽減する方法です。局所麻酔剤やステロイド剤や麻薬を患部となっている軟部組織、関節、神経根に注入する方法から、もっと複雑な神経ブロックや脊髄刺激療法に至るまで、様々な方法があります。激痛のある場合などには、カテーテルを使って脊髄神経に直接少量の薬物を投与することもあります。ステロイドの慢性的な注射は、機能障害をさらに強めることがあります。

牽引療法:重りを使って持続的あるいは断続的に骨格を引っ張り、少しずつ骨構造を整復するものです。急性期の腰痛症には、この牽引療法は推奨できません。

経皮的神経電気刺激(TENS):電池の入った機械を使って神経線維に沿って微弱な電気パルスを送り、脳に向かう痛み信号をブロックする方法です。痛みの患部やその周辺の皮膚に小電極を配置し、末梢神経から来る痛み信号をブロックするための神経刺激を行います。TENSはエンドルフィン(痛みの軽減作用を有する化学物質)という脳内物質の産生を促す可能性があります。

超音波療法:体内臓器を非侵襲的に温める治療法で、これによって筋肉が弛緩します。音波が皮膚を通過し、障害された筋肉や軟部組織に到達するのです。

骨粗鬆症による脊椎骨折の外来患者に対して行われる比較的侵襲の少ない外科的療法に、椎骨形成術後弯形成術があります。椎骨形成術では、椎体骨に細い針を刺入するために三次元画像装置を使います。糊のようなエポキシ樹脂を注入すると、それがすぐに固まって骨を安定強化し、迅速な疼痛緩和が得られます。後弯形成術では、エポキシ樹脂注入の前に特殊なバルーンを挿入し、それを膨らませることによって骨の厚みを元に戻し、脊椎の変形を防止します。

最重症のケースで他の治療法では症状の改善が得られない場合、背部の障害や筋肉と骨格の外傷によって生じる痛みを軽減するための手術が行われます。局所麻酔下に外来で行われる手術もありますし、入院の必要な場合もあります。この場合、完治するには何カ月もかかることがありますし、可動性に関して永久的な障害を残すこともあります。侵襲的な外科手術がいつも成功するとは限りませんので、進行性の神経疾患や末梢神経損傷に限って行われるべきでしょう。

椎間板切除術は、椎間板ヘルニアや骨棘によって神経根が圧迫された状態を解除するためのもっとも一般的な方法です。手術では椎弓(脊椎管の屋根を形成する弓状の骨組織)が切り取られ、その下層の障害物を取り除きます。

椎間孔拡大術は、脊椎管から神経根が出てくる部分の骨の穴(椎間孔)を拡大する手術です。椎間板がヘルニアを起こしたり脊椎関節が老化現象で分厚くなったりすると、脊髄神経が出てくる空間が狭くなり、その結果神経を圧迫することになって、痛み、しびれ、手足の脱力などの原因となります。細い間隙を通して神経を被う小さな骨部分を取り除くことによって、神経の障害物を切除し、神経を圧迫から解放することができます。

硬膜内電気療法(IDET)は、熱エネルギーを用いて椎間板の損傷やヘルニアによって生じた痛みを治療するものです。カテーテルを通して特殊な針を椎間板内に挿入し、最大20分間高温に温めます。熱によって椎間板は凝縮するとともに椎間板壁のシーリングが行われ、ヘルニア内部の体積が減少して神経に対する圧迫が軽減されます。

高周波経皮的椎間板減圧術は、高周波エネルギーを用いて比較的軽いヘルニアによって腰痛が生じている患者の治療を行うものです。エックス線ガイドによって細い棒状の器具を椎間板内に刺入し、椎間板内の物質を除去するための通路を造ります。棒状器具は熱せられて椎間板を凝縮させ、椎間板壁のシーリングを行います。椎間板内の物質をどの程度除去するかによって、複数の通路が造られることがあります。

パルス高周波法は、電気パルスを使って神経伝達(痛みの信号を含む)を6-12ヶ月間ブロックする方法です。エックス線ガイドにより、特殊な針を患部領域の神経内に刺入します。針の先端周囲の神経組織は90-120秒間熱せられ、その結果局部の神経組織が破壊されます。

腰椎固定術は、脊椎の強度を増して痛みの発生を予防するものです。複数の椎体間の椎間板を除去し、骨移植片やねじ固定の金属器具などを使って椎体の癒合を行います。腰椎固定術によって脊椎の可動性が低下する可能性があり、また骨移植を行った場合には、椎体の癒合が完成するまでの回復に長期間を要します。

椎弓切除術(脊髄減圧術とも呼ばれます)は、椎弓(普通両側の)を切除することによって、脊椎管の内径を拡大して脊髄や神経根への圧迫を軽減するものです。


重度の慢性疼痛を軽減するための他の手術法として、脊髄後根切断術(神経根が脊髄に移行する部分で神経を切断し、痛みのある部分のすべての知覚伝達を遮断するもの)、脊髄索切断術(片側または両側の脊髄内を走行する神経線維を意図的に切断し、脳への痛み信号の伝達を遮断するもの)、後根進入部遮断術(痛みを伝達する脊髄の神経細胞を外科的に破壊するもの)などがあります。


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7.腰痛は予防できるか

不適切な肉体メカニズムや、外傷以外の原因で発生する再発性の腰痛症は、予防可能であることが普通です。腰部に衝撃を与えたり緊張を強いたりすることのない運動療法の組み合わせや、正しい姿勢の維持、適切な物の持ち上げ方などにより、腰部の損傷を防ぐことができます。

作業に起因する多くの傷害は、重量物の挙上、接触損傷(柔らかい肉体と固く鋭い物体との反復性或いは連続性の接触、例えば、固い机の端に手首を置いたり、ハンマーを打ち続けるような作業など)、振動、反復運動、不安定な姿勢、などのストレスによって引き起こされ悪化していきます。家庭でも作業場でも、人間工学に基づくことによって(傷害から身を守るように設計された家具や道具の使用)多くの腰部障害を防止し、健全な背部を維持することができます。より多くの企業や建設会社が、筋肉や骨格の傷害と疼痛の危険性を減らすために、人間工学に即応した道具や器具、作業台、居住空間などの導入促進を行っています。

腰痛予防のための背筋と腹筋を締め付ける幅広の弾性ベルトについては、その是非について議論があります。商品の挙上や運搬を行う作業員の装着する背部と腹部のサポーターに関する大規模研究では、このベルトによって腰部の損傷や疼痛が減少するという明らかな証拠は得られておりません。国立勤労保健研究所が2000年に報告を行った2年間の研究成果によれば、毎日保護ベルトを装着する作業員と保護ベルトを全く装着しないか月に1-2度しか装着しない作業員との間の比較を行った結果、職場で発生した腰部損傷の補償請求の頻度と自己申告による腰痛の頻度において、両者の間の統計学的有意差は認められませんでした。

バックベルトを使用する作業員の間では傷害が少ないという逸話的な報告がこれまでのところいくつかありますが、バックベルトを推奨する多くの企業においてさえ訓練課程や人間工学的配慮のプログラムを実施しています。報告された傷害リスクの減少は、こうしたいくつかの要因が組み合わさって生じたものであると考えられます。


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8.腰痛を治すコツ

活動停止期間が長引いた後には、規則的な衝撃の少ない運動プログラムから始めましょう。一日30分の速歩、水泳、或いは自転車こぎなどは、筋肉強化と柔軟性増加に役立ちます。ヨガもまたストレッチと筋肉強化を助け、姿勢の改善に効果があります。貴方の年齢に適切な、腰部と腹部の筋肉強化を目的とする衝撃の少ない運動メニューについては、医師や理学療法士に問い合わせてください。

* 運動やその他の強い肉体的活動の前には必ずストレッチ運動をしてください。

* 立位の時も座位の時も、前傾姿勢は禁物です。立位のときには、均等な荷重が両足にかかるよう維持してください。湾曲が少ないほど背部は荷重を支えることが容易になります。

* 家庭でも職場でも、作業面があなたにとって快適な高さになるよう心がけましょう。

* 腰部に対する支持が良好で、適切な位置に置かれた、そして作業に適度な高さを有する椅子に座りましょう。肩は後方に維持してください。座位の姿勢を頻繁に変えること、職場の中を定期的に歩くこと、緊張を解くために軽いストレッチを行うことなどを心がけましょう。枕や丸めたタオルを背中の真ん中に置くことによって、腰部の支持が改善する可能性があります。もし長時間の座位が必要な場合には、低めの台や積んだ本の上で足を休めるようにしてください。

* 快適で踵の低い靴を履きましょう。

* 背骨の湾曲を減らすために横向きで眠りましょう。固い表面の上に寝てください。

* 病気や怪我の家族を臥位から座位へと移すときや、患者を椅子からベッドに移動するときなどには、必ず助けを呼びましょう。

* 貴方にとって重すぎる物を持ち上げようとすることは決してしないでください。持ち上げるときは膝を使い、腹筋は伸ばした状態で、頭部を下方に向け、背部はまっすぐに伸展した状態で維持しましょう。物体はできるだけ体に引き寄せてください。持ち上げているときに腰を捻ることは絶対にしないで下さい。

* 適切な栄養を摂取するとともに、食事療法で過度の体重を減量して維持して下さい。特に腰回りの贅肉は腰背部の筋肉に負担をかけます。毎日十分なカルシウムとリンとビタミンDを摂取することは、骨の新生を促進します。

* 喫煙習慣は止めましょう。喫煙によって腰部脊椎の血流が低下し、椎間板変性の原因となります。


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9.腰痛に関する研究について

合衆国保健厚生局内部の国立衛生研究所(NIH)の一部機関である国立神経疾患脳卒中研究所は、脳と神経系に関する研究の連邦第一のスポンサーであり、疼痛とそのメカニズムについての研究を推進している主力機関となっています。NIHの中には疼痛についての研究を行う施設が他にもあって、それらには、国立歯科頭蓋顔面研究所、国立がん研究所、国立薬物中毒研究所、国立精神疾患研究所、国立補助医療と代替医療センター、国立関節炎と筋骨格および皮膚疾患研究所などがあります。それに加え他の政府機関、例えば退役軍人局や疾病制御予防センターなどでも腰痛の研究を行っています。

腰痛、特に6カ月以上毎日継続する腰痛を効果的に治療するために、研究者は様々な薬物の使用についての臨床試験を行っています。急性の腰痛症に対する治療に関して、様々な治療アプローチの比較試験を行っている研究者もいます(カイロプラクティック、鍼治療、マッサージ治療と一般治療の比較)。こうした研究では、自覚症状の軽減や機能の回復、患者の満足度などが計測されます。また別の研究では、脊椎管狭窄症の患者の健康面での日常生活レベルの変化について、標準的な手術治療と最も一般的な非手術治療の比較が行われています。NIHが基金を供出するカイロプラクティック共同研究センターでの研究を通じて、高度なカイロプラクティック技術の推進が行われています。さらにこのセンターでは、基礎研究と臨床研究との協力関係や従来治療とカイロプラクティック治療との融合などが推進されています。

低用量の放射線照射によって脊髄周辺の瘢痕形成が減弱し、手術成績が改善するかどうかを調べている研究者もいます。またさらに、脊髄損傷や神経変性によって痛みの感受性が増加し、疼痛閾値の減少(正常では痛みの感覚とはならないものが痛みとなること、病的疼痛の一種)が起こることについてや、脊椎骨折とその修復過程において脊椎管や椎間孔(神経根の出口)にどのような影響が残るのかについての研究も行われています。

椎間板の変性した患者に関して、人工椎間板への置換術の効果についても調査中です。傷害を受けた椎間板を除去し、25セント硬貨ほどの大きさの金属とプラスティックでできたディスクを挿入するものです。この椎間板置換術の最良の適応は、20才から60才までの患者で、変性した椎間板が一つであること、骨粗鬆症などの系統的な骨病変のないこと、過去に脊椎手術の既往がないこと、非手術的な治療によって改善しないこと、などの要件を満たす人たちです。この手術は他の脊椎手術と比較して、手術からの回復が早く手技も簡単で合併症が少ないようです。


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